1回自然科学研究機構技術研究会 発表予稿

 

1-1 すばる望遠鏡の駆動系振動・AZレール平面ずれを原因とする追尾誤差

神澤富雄  国立天文台 ハワイ観測所 

 すばる望遠鏡の追尾精度を悪化させる要因に1)駆動系振動と2)AZレール平面ずれがある。1)の振動を鏡筒トップリングの加速度で測定し、Elevation軸方向に3.6 Hz79HzElevation方向に56Hzの3種類の振動が確認できた。これは観測した星像が伸びる現象となる。2)の平面ずれは、AZレールが建設当時と比べ最大0.2mm凹んでいる部分があり、その影響で望遠鏡構造が変形するものである。誤差は15"p-pと考えられ、器差テーブルにより補正を行っている。

 

1-2 RISE計画におけるレーザ高度計の紹介

田澤  誠一  国立天文台 RISE推進室

月の起源と進化の解明を目的とした日本の大型月探査機が2007年度にH-IIAロケットによって打ち上げられる。この計画はセレーネ(SELENE:SELenological and ENgineering Explorer)と呼ばれ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)により進められている。国立天文台からはRISE推進室がリレー衛星、VRAD衛星およびレーザ高度計の3つの機器の開発を通してセレーネ計画に参加している。これらの機器によりこれまでにない精度で月の重力場と地形が観測されることが期待される。

本発表では私が担当したレーザ高度計の開発について紹介する。

 

1-3 TAMA300の紹介

山崎利孝  国立天文台 重力波プロジェクト推進室

 静かな湖面に石を落とすと、同心円の波紋が広がります。同様に、宇宙空間の星が中性子性の合体を起こすと、重力の場に変動が起こり、波のように伝わる、とアインシュタインが予言した。それから約100年、今まさに『検出』しようという研究がTAMA300にて行われている。

 現場では、レーザー干渉計の運転・制御、地面振動の影響を減らす工夫、光学系の設計、自動制御と自動化・無人運転に向けてのソフト開発、真空パイプの維持管理、電気回路の設計・基板製作・試験、アナログでの制御回路からディジタル制御への変更、などが行われている。

 このような中で、技術系のスタッフが何を行っているか、現状と問題点をも紹介する。 今回は、TAMA300の見学も計画されているので多少の予備知識を紹介し、見学の際のお役に立つようにしたい。

 

1-4 アルマ計画と技術系職員の業務紹介

千葉庫三、岩下浩幸、他ALMAプロジェクト技術系職員

    国立天文台 ALMA推進室、先端技術センター

アルマ(ALMAAtacama Large Millimeter/submillimeter Array:アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)計画は、ミリ波・サブミリ波天文学を推進するために日米欧の国際協力により、南米チリ標高5,000mの高地に巨大電波望遠鏡を建設するものであり、2011年度運用開始を目指して建設が始まっている。本講演では、アルマ計画の概要と、その中で技術系職員が担当している業務を紹介する。特に、日本が提供する受信機カートリッジの全体構造と、開発進捗についてやや詳しく報告する。アルマ計画において国立天文台は、1つのミリ波用と2つのサブミリ波用、計3種類の受信機カートリッジの製造開発を進めているが、特にミリ波用受信機カートリッジの開発状況について報告する。

 

1-5 暦計算室の紹介

松田 浩   国立天文台 天文情報センター 暦計算室

暦(こよみ)の編纂は天文学のもっとも古い分野の一つであるが、現在も観測精度の向上と理論研究の進歩によって、改訂が続けられている。

暦計算室(れきけいさんしつ)では、国際的に採用されている基準暦をもとに、太陽・月・惑星の位置を始めとする、諸暦象事項を計算し、暦書の編製として、「暦象年表」を発行している。またより一般になじみが深い、国民の祝日など主な暦象事項を官報で広く公表している。

本発表では暦と暦計算室の業務について紹介する。

 

2-1 画像入力装置の製作と電子回折パターン解析によるナノ粒子の双晶面決定から赤外

レーザ・ビーム位置計測・制御等への応用まで        

山内健治 核融合科学研究所 技術部 

25年ほど前に当時は、画像をコンピュータ・データとするための装置はまだ大変高価な時代であったのでメモリやカウンターICを使い画像入力装置を製作して使用した。その目的はナノ粒子からの電子回折パターンの解析によるマルチ双晶構造の決定することであった。

核融合研では、プラズマ電子温度計測用赤外レーザ・ビームの位置検出と制御・監視を画像処理装置を使って行った。

 

2-1 強いコントラストを持った文字盤の読み取り装置の開発

高橋千尋 核融合科学研究所技術部 制御技術課

プラズマ実験ではショットナンバ(数値の並び)は実験データをidentifyするための

重要なキーコードである。通常ショットナンバは配信装置より各計測・制御システ

ムの計算機宛にLAN等を通じて配信される。大型LEDモニタにはショットナンバが

ドットパターンとして通信路を経ずに配信装置より直接配られている。LANなどの

通信線でのショットナンバ配信は、そのコリジョンやジャムから配信が遅れること

がある。このため遅れ補完システムとしてTVカメラでLEDモニタ上のドットパターン

値を読み取る画像処理装置を開発したので報告する。

 

2-3 SMESコイル巻線機制御における画像処理について

小川英樹 核融合科学研究所技術部 制御技術課

核融合科学研究所では、現在1MJ級のSMES(Superconducting Magnetic Energy

Storage)コイルの巻線機を開発している。巻線機制御においては、通電時の交流

損失を抑えるため、巻取り時の素線の捻り角度を±5度の精度で制御する必要が

ある。角度制御は近接センサの測定値を基に行っているが、精度向上のため画像

処理の併用も検討している。巻き線機制御の概要および画像処理の開発現状につ

いて紹介する。

 

2-4 LHD実験における超広帯域データ収集と実時間データ監視

大砂真樹 核融合科学研究所技術部 計測技術課

 昨今LHDでは、プラズマを長時間保持することを主なテーマの一つとして実験を行い、2005年には1時間以上のプラズマ保持を達成した。この定常実験本格化を受けて、我々LHDデータ収集グループでは、保持中のプラズマデータを即座に利用できるように、実時間でのデータ収集・保存・ネットワーク転送を行うためのシステムを策定し開発を続けている。今回は、このシステムについて、その概要と現状と今後の開発課題などを報告いたします。

 

2-5 LHD NBIにおける計測システム

渋谷真之 核融合科学研究所技術部 加熱技術課

中性粒子入射加熱装置(NBI)では、電源電圧、電流、受熱機器温度や冷却水温度などの信号を、PCベース計測器WE7000を用いて計測している。WE7000は高電位部にも置いてあり、ノイズ対策を含めその計測システムの構成を紹介する。また、LabVIEWで作成したプログラムでWE7000の制御及び測定データの解析・表示を行っており、そのプログラムについても紹介する。

 

3-1装置開発室におけるマイクロ加工技術
鈴井光一 分子科学研究所 装置開発室

分子研装置開発室の機械グループ(技術課1班)では実験機器開発を機械技術で支援し、分子研創設以来、多くの機器開発・製作から超高真空装置、極低温装置、放射光関連装置などの機械要素部分に関する技術を蓄積してきた。現在は、将来計画をふまえ、今後の工作室の特色技術の1つとして確立するために、現有工作設備で可能な「マイクロ加工技術」を中心に取り組んでいる。そこで最近の製作例を紹介しマイクロ加工に関する展開について報告する。

 

3-2 BL1A分光器制御・測定システムの製作

近藤 直範  分子科学研究所 極端紫外光研究施設

 UVSORのBL1Aは二結晶分光器のビームラインである。本ビームラインではPC9801を制御・測定用PCとして使用してきたが、メンテナンス面で問題があるためPCを更新し、あわせてLabVIEWでプログラムを製作した。以前のプログラムの基本的な機能は引き継ぎ、制御可能な計測器の台数・種類を増設し測定結果の表示画面をより分かりやすくするなど改良を加えた。また今後の測定器の新設、増設に対応できるようにもした。本発表では制御・測定システムを説明し、製作したプログラムについて報告する。

 

3-3 高出力赤外波長可変超短パルスレーザーシステムの構築

上田 正 分子科学研究所 分子制御レーザー開発研究センター

 分子研分子制御レーザー開発研究センターの概要と技術職員の業務について紹介する。レーザーについては、基本的な原理から、最近開発した超短パルスレーザーとして、分子の指紋領域である中赤外域において高出力発振に成功した分光用波長可変ピコ秒レーザーシステムについて発表する。

 

3-4 分子構造の4次元的観察ツール

水谷文保  岡崎共通研究施設 計算科学研究センター

本ツールは、分子の様な定型構造およびそこに広がる電子雲の様な不定形構造を、同時観察することを目的に1996年より開発を進めている。当初は高価な計算機でのみ可能だった3次元構造観察を、一般的な環境で表示させることを念頭に置き、特にウェブヘルプアプリケーションとしても利用させることを想定した。その後計算機の性能向上に伴い、複数3次元構造を時系列で切り替え、実時間で4次元観察できる様に改良を加えている。

 

4-1 生理科学における可視化技術  

                        大庭明生 生理学研究所 技術課 

生体の構造を知るためにその構造物を染色したり(野村報告)、その構造物の立体構造を理解するために構造物の傾斜像をコンピューター処理したり(山口報告)、構造物の本来の姿をとらえるために染色に頼らない方法を考案したり(大河原報告)、生体からの信号を感受し、コンピューター処理により生体機能をとらえたり(永田報告)、構造や生体信号をとらえる装置を開発、改良すること(加藤報告)が生理科学の可視化技術である。

 

 

4-2 マウス脳水平断アトラスの作製

                                      野村博美 生理学研究所 技術課 

脳の研究には、従来ラットが多く用いられてきたが、近年マウスを用いた実験が急激に増加している。しかしラットのデータと比較して、マウスに関する基礎的なデータの蓄積は不十分である。これまで市販されているアトラスには、マウスの水平断の詳細なデータは無く、脳の組織が表層からどの位置にあるのか不明であった。そこで、マウスの水平切片を用いて、アセチルコリンエステラーゼ染色とチトクロームオキシダーゼ染色、ニッスル染色の三種類の染色法を行い、脳全体のアトラスを作製したので報告する。

 

4-3 超高圧電顕を用いたトモグラフィー法による脳細胞の三次元解析

                       山口 登 生理学研究所 技術課

脳細胞の大きさや構造を三次元的に解析する方法として、最近、コンピュータ・トモグラフィー法が用いられている。これは電顕による連続傾斜像(2次元像)から計算処理により、細胞の三次元断層像を得る手法であり、解析はこの断層像を利用して行なわれる。また、汎用電顕に比べ数十倍の厚さの試料を観察できる超高圧電顕を用いることにより、薄切処理による細胞の変形を極力抑えた正確な解析が可能となる。今回はマウス等の神経細胞やグリア細胞を例に、三次元解析の現状を報告する。

 

4-4 位相差電子顕微鏡用位相板の開発
大河原 浩  生理学研究所 技術課 
 炭素、窒素などの軽元素からなる試料を透過電子顕微鏡で観察する場合、透過する電子線のほとんどは試料に吸収散乱されず位相変化を与えられるため、その電子顕微鏡像のコントラストは低い。この場合、従来は試料を重金属で染色した
り、フォーカスをずらしてコントラストをあげるなどの手法が取られてきた。最近開発された位相差電子顕微鏡は従来の電子顕微鏡と比較して位相コントラストを効率よく表現できる。また、コントラストの付きにくい軽元素からなる試料を
無染色でも観察できる利点を持つ。位相差電子顕微鏡には位相板が必要不可欠である。今回、炭素薄膜を使った位相差電子顕微鏡用位相板の開発の現状を報告する。
 

4-5 高次脳機能研究のための非侵襲生体磁気計測(MEG)

永田 治 生理学研究所 技術課 

 高次脳機能研究においては、言語や知覚認知など直接ヒトを計測対象としなければならないため非侵襲は必須条件となるが、その手法としてfMRIやPETといった大型装置が利用されておりMEGもその一つである。世界的にもMEGは多くが日本に設置され先端的な研究が行われてきた。生理研でも早期に多チャネルMEGが導入され、多くの研究がおこなわれてきたが、ここではおもに装置の原理と留意点、データの画像化と脳機能マッピングの実際などを報告する。

 

4-6 凍結割断レプリカ作製装置の改良

 加藤勝己 生理学研究所 技術課 

 近年、それぞれの分子が生体を構成する個々の細胞の何処にどれだけ存在するのか(分子局在)を明らかにすることが生理機能を支える分子メカニズムのさらなる理解に向けた課題となっている。生体分子の局在解析法としては、抗体を用いる免疫組織化学的な方法が最も汎用性が高いため広く用いられており、その一手法として凍結割断レプリカ法が採用されている。しかし、市販の装置では、色々な問題があり、そのままでは目的とするレプリカ膜を観察できない。今回、これまで行ったレプリカ作製装置の改良を報告する。

 

 

5-1 大腸菌の中の小さな宇宙

諸岡直樹 基礎生物学研究所 技術課

 大腸菌は4.6 Mbpの塩基からならゲノムを持つ。塩基配列はすべて決定されており、それらの情報をもとに約4,400個のタンパク質が作られている。しかしながら、その中で機能がわかっているものは半分しかなく、残りは予測でしか過ぎない。我々の研究室では、この大腸菌をモデル生物として遺伝子の機能、特に遺伝子が複製されるときの仕組みを調べている。現在、私が関わっているプロジェクトではゲノムのある場所に目印となる蛍光タンパク質をつけ、数μmの菌体内での位置を探る実験を行っている。

 

5-2 ポストゲノムシーケンス時代の比較ゲノム解析

山口勝司 基礎生物学研究所 技術課

 1995年に下等生物から始まった、様々な生物種の全ゲノム配列を決定する試みはヒトを含め多くの生物種で達成され、近年は基礎研究の材料を代表する「モデル生物種」から一般的な多くの生物種に移行している。一方、これら多くのゲノム配列情報から新たな知見を得る「比較ゲノム解析」が重要な課題になっている。今回は「比較ゲノム解析」とは何かを技術的側面を中心として具体例を挙げ、自分が解析した実例を紹介したい。

 

5-3 基礎生物学研究所における分子生物学データベースの構築

三輪朋樹 基礎生物学研究所 技術課

所属する基生研電子計算機室では、研究部門から依頼されるデータ解析やデータベースの構築を行っており、非公開データベースを含め15生物種17データベースの作成から維持管理までを行っている。これらデータベースは、EST解析結果をベースとしたものから立体画像による多角的な視点からの観察を可能にしたものまで幅広く扱っている。今回はこれらデータベースの紹介と実際の構築手法についていくつかの例をあげて紹介する。

 

5-4 形質転換生物研究施設・飼育棟の紹介

林 晃司 基礎生物学研究所 技術課

 形質転換生物研究施設・飼育棟は、SPFマウス、小型魚類・両生類、鳥類、昆虫の各飼育室と、それらに関連する実験室などで構成される施設棟である。当施設における職員の主な役割は、実験動物の生育に適した環境、利用者にとって利用しやすい環境を整え、そして維持することである。また、胚操作技術を用いることにより、研究に必要な形質転換動物の作製をサポートすることも、必要に応じて行っている。